言葉選びと言葉責め 1

文体、修辞法(レトリック)と書いてきた。さらに粒度を細かくして、今回は言葉選び(単語)のお話。

まずは書き言葉から。ブログのような文字主体のメディアでは、言葉の選び方でがらりと印象が変わる。内容が正確に伝わり、しかもえっちな単語を選びたい。
例えば、女性器をなんと表記するべきか。恥丘、クリトリス、子宮といった単語は、私には違和感なく使えるのだけれど、陰唇から膣ぐらいまでを表す単語は意外と悩ましい。さすがに「女性器」では医学用語みたいで固すぎるので、俗語の「おま○こ」ぐらいが妥当だと思うけれど、「あそこ」とか「秘部」とか書くのも好きだ。性器というのはそのまま見るとグロテスクなので、少しぼかして書いたほうがいいかなと思っている。

官能小説用語表現辞典[*1] では、女性器として以下のような表現が紹介されている。
赤い肉裂, あけび口, あふれた泉, 岩牡蠣, 淫裂, 熟れたイチジク, おんなの花園, 湿潤地帯, 花弁, デルタゾーン, 泥濘, 粘膜の窓辺, 秘処, 秘門, 秘壺, 聖域, プッシー, プリン, 女陰(ほと), ワレメ, 割れた栗のイガ,  柔肉の溝, 赤貝, 蜜壺, 密唇, 花唇, 舌肉, 沼, 濡れ穴, ザクロ, 網焼きの鮑, イソギンチャク, ミミズの洞穴, アリジゴクの巣...

女性器一つとっても、実に多くの表現がある。どの単語を選ぶか(または創造するか)は作者の自由だ。文体や語感によって単語を選び、使い分けていく。

たとえばSMの巨匠、団鬼六はどう表現しているだろうか。
京子の指先で開花した女肉の層は新鮮な刺し身のように綺麗な色に潤んでいるようだ("肉の紋章")
初代の指先で押し拡げられた花肉の層は新鮮な魚肉のように綺麗な薄紅色を呈している("美人妻・監禁")
「はい、を開いて」久美はクスクス笑いながら、両の指先を使って美弥子のその秘裂を生々しく押し拡げ、鮭肉色の熱く潤んだ花肉を露わにさせた。("空蝉の女")

女肉の層、花肉の層といった表現は、形状を表した解剖学的な描写と言えるだろう。また、新鮮な魚を思わせる色艶と表現されている。扉という表記もあるが、これはリアルプレイでは使わないだろう。実際にこの台詞を言ったら、笑ってしまいそうだ。("空蝉の女"は西暦2000年の出版だが、当時でもこうは言わないだろう)。

私(カイ)の場合はどういう言葉を選ぶか。
SMの性的快楽というのは、身体的実感と脳内妄想の融合であるから、これを読者の脳内に再現するためには、感覚入力の描画(色彩、形状、匂いや触覚など)と、物語の描き込み(状況や精神状態など)のバランスを考える必要がある。私は「赤貝」のような見た目の生々しい表現はやや避け、「あそこ、秘部」といった単語を用いる。そして、ジュクジュクしてるよ、といったオノマトペ(擬音)や感じていることを表す物語(濡れてる、喘ぎ声をあげている)を多めに取り入れている。例えば、次の1より2のほうが好み。
1 奴隷の肉裂に指を挿れると、中は泥濘のようであった・・・。
2 奴隷の膣に指を挿れる。くちゅ。「中からおつゆ溢れてるよ。」

書き言葉では上記のような言葉選びをしているのだけれど、話し言葉はだいぶ勝手が違う。例えばオナニー鑑賞時。奴隷ちゃんに自分で言わせると、「あそこ」とか「私のいやらしいところ、見てください」とか言ってくる。花唇、花園、赤貝、秘壺などは絶対使わない。すなわち言葉責めで使う単語はぜんぜん違う語彙集から選んでいることになる。

ということで次回は話し言葉、言葉責めのための単語について。

つづく


[*1] "官能小説用語表現辞典", ちくま文庫, 2006, 永田 守弘

本文では、FC2ブログ制約により一部伏せ字としている

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カイ

9月5日の非公開コメント様
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